私は朝ドラが見れない

だいたい長続きしない。

【映画・原作】ナイルに死す、ナイル殺人事件(前編)

 

映画、原作のネタバレに一切配慮しないので気を付けてね。

感想とかいろいろ。

 

長くなったので畳む。

 

 

アガサ・クリスティーが好きです。

学生の頃にたまたまTUTAYAかどっかで借りたオリエント急行の殺人(75年版)を見てえらく感動した。

その後に原作を読み、75年版の映画はとにかく原作をよりよい形で再現していたことを、当然だと、そう思い込んでいた。あの頃。

 

んでもって、今回のナイルに死す。

これもすごく好きな本だった。

 

ナイルに死す(ナイル殺人事件)原作の3行あらすじ

  • 美人で資産家のリネットは、友人のジャクリーヌと婚約していたサイモンに惚れ、サイモンを寝盗る。

  • リネットはサイモンと結婚し、二人は新婚旅行に出るが旅行の先々でジャクリーヌが現れる。

  • そして豪華客船でリネットは殺される。一体誰がリネットを殺したのか――

 

 

大体そんな感じ。

んで、原作では、この殺人が起きるまでけっこう時間がかかる。

本文の半分くらい読み進めないと死なない。

 

リネットについて①

序章はリネットは美しく、頭がよく、誰に対してもそれなりに優しいものの他者へ優しいのはリネットが美しさ故に優しくされるのが当然の環境にいたから…という、同性からすると「はぁ?toはぁ?」極まりなく、

いかに人生がイージーモードだったのかを序盤からこれでもかってくらい盛られる。

中盤に入ってもそれなりに盛られる。

アガサ・クリスティーがこのリネットに対して鼻につく部分をちょこちょこ出すことで印象づけるような意地悪さを醸しながら書いている節がある

(あくまで新翻訳版なので原作、原文ではどのようになってるか知らん。とりあえず新翻訳版はそういう印象を受けた)。

リネットは直接的に意地の悪い女とかじゃないところが厄介。あるじゃん、今流行りのなろう系とか悪役令嬢ものとかにあるいい子ぶってるけど裏の顔はあくどいみたいな。

リネットはあれじゃない

頭が良く、善か悪かの二択であれば善人の部類に入る。

ただ、どうしても若く、美人で、常に主役であった彼女の『人に優しくされるのが当然の環境』が自然と彼女に貴族的な、『自分の思い通りにいくのが自然』という感性が備わって育ってしまった。

人生は多かれ少なかれ、大なり小なり上手くいかないことはある。

しかしリネットは上手くいかなかった経験が圧倒的に不足している、その点に関しては少し可哀想ではあるんだけども、読んでいる時は同情はあまりない。

 

というのも以下でふれているジャクリーヌの存在が強烈だから。

 

ジャクリーヌについて①

ジャクリーヌがまぁすごい。いい具合に面倒臭くて、いい具合に好きになれる。ミステリーとしてじゃなくて、その人格やキャラクターの色付けや意味づけがとにかくすごい。

ジャクリーヌはサイモンのことを「彼を愛している!結婚できなきゃ死んじゃう!」とリネットに話し、愛が重い印象を与え(事実、重い)

その後に無職の彼氏をリネットに紹介し、彼に仕事を紹介してもらう。

しかし、リネットがサイモンを好きになってしまったので、リネットはサイモンを奪う。

リネットはジャクリーヌと仲がよく、ジャクリーヌの「結婚できなきゃ死んじゃう」発言を聞いているにも関わらず、サイモンにモーションをかけたことになる。

もちろん、リネットとてジャクリーヌに申し訳ない気持ち、罪悪感があるとポワロが指摘している通り、それなりにあるのだろうが、引き返せる時に引き返さずに友人の彼氏を強奪したもんで、怒り狂ったジャクリーヌはサイモンとリネットの新婚旅行先に現れては追いかけ回すのだが、この時のストーカー感が強烈なのに、如何に彼女がサイモンを愛しているのかの説得力がある。

しかし、まぁ読者目線ではリネットが強奪したことを知っているのでジャクリーヌに同情するように描かれている。

総合的に読んでジャクリーヌ、リネットの描写が秀逸。

この原作、事件が起きるまでの観光旅行タイムがめちゃくちゃ長いものの、このやりとりも含めて全て伏線のようになっていて、アガサ・クリスティーは神じゃんってなる。

ポワロに「引き返すなら今だと」説得されるが、ジャクリーヌは拳銃を持って豪華客船に乗り込む。

 

二人のヒロインとサイモン

前半のヒロインはリネット、後半のヒロインはジャクリーヌ、このWヒロインだからこそこの物語は成立するのであって、こんなにも読んでる側の気持ちがかき乱されることはないように感じた。

そして主軸はリネットとジャクリーヌに当たっているが(途中で他キャラの話も出てはくるがそこらへんは別として)、女二人に好かれる色男サイモンは強烈な女二人に比べると地味な存在なのに、どちらを軸においても、サイモンが必ずいる。

めちゃくちゃ地味なのに話を総合的に考えてもこいつがいないと女の友情が乱れることもなかったし、面倒事に発展することもなかったので、普段は存在感がないからマジで地味なんだけど、サイモンの印象は悪く言えばゴミ。

常に軸にあることを考えたら真のヒロインはサイモンなんだけど、悪く言うとゴミ。

 

 

 

こっからネタバレ。

 

 

真相

  • サイモンとジャクリーヌはわざと揉め事を起こして容疑者から外れるが、リネットを殺したのは夫のサイモン
  • サイモンはジャクリーヌと結託して、リネット殺しを決行
  • リネット殺しの目撃者2人はジャクリーヌが殺す
  • 最後、ゲームに敗れたジャクリーヌはサイモンを撃ち殺し、自害

 

つまり、当初は

リネットがジャクリーヌの恋人だったサイモンをNTRしたように思えたが、

サイモンはリネットのことが苦手であるが、無職で金のない自分がリネットを殺せば財産が手に入るというドリームを持ってしまったことにより、リネット殺しを企てる。

しかし、サイモンは素直かつ単純な男であることをよく知っているジャクリーヌ(そこも愛しているのだそうだ)、頭のいいジャクリーヌは彼を愛しすぎているからこそ、彼にもっと狡猾な計画を企てる

というのが事件の真相。

読み進めている時は「もしかしてサイモンとジャクリーヌって切れていないんじゃないか…?」と思う場面もあったが、

巧妙にジャクリーヌの本心とマッチするようなセリフや考え方、質問への回答が隠されているのがこの本書の上手なところ。

 

例えば、

事件前にポアロがジャクリーヌにまだ引き返せると話した場面が、後にジャクリーヌは引き返すか迷っていた(リネットを殺すことを躊躇っていた)に繋がっていたりする。

 

ジャクリーヌについて②

ポアロはジャクリーヌを愛しすぎている女と称する。

最初は婚約者を奪われて怒り狂う女という意味での愛しすぎている女、かと思いきや

真相は愛する男のために友人殺しに関与してしまう程に愛しすぎている女、が正解だった。

この一つの質問から、二重の答えを実は孕んでいたパターンはそもそも好きだったが、

ここに女の深い愛と、越えてはならない線を越えてしまうほどの悪い意味での思い切りの良さが繋がったもんで、

やっていることはどう考えても駄目、絶対ダメではある。しかし、ジャクリーヌはどうしても嫌いになれない。

小説版では、事件の証拠が全て揃っていたわけではない事にジャクリーヌは白を通す気でいたらしいが、つめられてしまったサイモンがゲロってしまい、ジャクリーヌも逮捕されることになる。

サイモンがゲロらなければ、ジャクリーヌは一生白を切る覚悟があったことが痺れます。

サイモンがゲロったことを「負け方がお粗末すぎるのよ」と言うジャクリーヌ、もう痺れる。

そしてポアロに「あなたは負けっぷりがいいですね、マドモワゼル」と言わせる。

もうね、このやりとりが最高に痺れるのです。探偵と犯人の間柄でありながら、ポアロは一種の称賛に近いものを述べている。

ここらへんの会話がね、本当にいいのよ。

ジャクリーヌはこの後に胸の内をポアロに語るんですが、そこに彼女の本音と、こうであって欲しいという希望のようなものを吐露する。

勿論、ジャクリーヌの語る言葉全てが真相ではないのかもしれない、彼女がこうであって欲しいというものなので、これを真とするには他の人間達の心情(そもそもリネットは死んでしまったし)が欠落しているが、紛れもなく彼女の心の叫び。

それが彼女を強い女のようでいて、愛しているが故の脆さのようなものもあって、ジャクリーヌという女性の強さと脆さの魅力がつまっている。

 

小説では最後のあたりでジャクリーヌは最後にサイモンと会うと、サイモンは(ゲロったことに)謝罪するが、ジャクリーヌは彼を責めることなく、

「いいのよ、サイモン。わたしたちは愚かなゲームをして負けた。それだけのことよ」と言ってサイモンを撃ち殺し、自分の心臓も撃つ。

その潔さがお見事としか言いようがない。

事実だけを考えると全然よくはないんだけど(被害者も出てるし)

上記にあるようにポアロが「あなたは負けっぷりがいいですね」と称したように、最後の幕は自らの手で下ろすジャクリーヌに痺れる…!

最初から最後まで、ジャクリーヌには一種のたくましさを感じ、どうしても憎めず、魅力を感じずにはいられない。

 

 

ぐだぐだ書き続けたけど、何を言いたいかってーと

 

結論:

ナイルに死すは愛が故の物語であり、

ジャクリーヌが愛の形を訴える物語

 

ってのが私なりの結論。

勿論、ジャクリーヌ以外の愛も描かれているのでジャクリーヌの為だけの物語…というまではいかないにしても、

ナイルに死すの主語はジャクリーヌなんだよ。

 

 

長くなってきたので一度ここまで。

ジャクリーヌへの思いだけは込めた。

映画はどうだったかはまた今度。